創作文。

丸くて白いティーカップにそっと手をあてる。茶色い液体に自分の顔がぼんやり映った。

「…………」

結局答えは出なかった気がする。ゆっくり辺りを見渡すと乱雑に散らかった部屋の一角のここだけは小奇麗に整頓されている。衝立で仕切られたこの空間にはテーブルと椅子がふたつとシンプルな配置になっているのだ。

はっきりしない思考のままカップをテーブルに置いた。目の前の人物に目を合わせられない。数時間に至って話をし続けたのは思ったより疲れたようだ。何も言葉がでないまま沈黙が続く。



(これがカウンセリングか…)

話を聞いてもらった実感がイマイチ湧かない。何が変わったとか感じられないのだ。同じ質問や話を延々と繰り返した気がする。言葉が足りない、その意味じゃないと繰り返す度に次の言葉が浮かんでは消えていく。どの言葉も答えに行き着いた気がしない。しかしそれ以上の言葉は出てこない。もう終わりになることを察して言うべきことを探す。

 

「ありがとう…ござい…ました……」

辛うじて言葉を紡ぐ。その言葉でそのカウンセリングは終わりになった。

 

「また何かあったらいつでもおいで」

目の前の人物の声が聞こえた。おそるおそる見上げればその人は笑っていた気がする。

これで終わりにしなくてもいいんだ。まだ続けられる。そう思った瞬間、その人は何でもなかったように雰囲気が変わり、いつものだらしない青年に戻った。

「さて、僕はトイレに行ってくるよ」

その言葉を残して立ち去っていった。気配が消えたのを確認して残っていた紅茶を啜る。冷め切った液体が喉を伝った。

 

俺以外にも人がいることを自覚した。その人たちの存在に気が付いた。

少しでも新しい居場所を。