きらきら輝く夜の星空。静かな夜更けに澄んだ泉の傍で犬と人が並んで座っていた。不思議なほど明るく本来は暗闇の時間なのにその姿はよく見えた。
「『虹』がテーマかぁ…」
人は紙とペンを握ってうんうん唸っていた。城下で募集がかかっていた作品集へ投稿するための絵を描いているのだが先程から描いては消してを繰り返している。犬の方はというとお気に入りの骨をぱりぽりと心地良い音を立てながら夢中になって齧っていた。
「ねぇプー、あまり考え詰めるのも良くないよ」
犬は骨を齧りつつぼそりと呟いた。
「プーと呼ぶなよ、黄色い熊じゃねーか正しく呼べよプロキオンだよ」
プロキオンと訂正をした人は橙色の髪をぐしゃぐしゃと引っ掻き、行き詰ってしまったとペンを投げ捨て大きく伸びをした。
「Hey! シリ!尻をもふらせろ」
そう言ってプロキオンは犬の尾の周りをわしゃわしゃを撫でまわしはじめた。
「そっちも尻とか呼ぶじゃないか…シリウスだよ…」
いつものやりとりなのでぼそりと呟くに留めシリウスは仕方ないとばかりにされるがままに撫でまわされた。プロキオンはひとしきり撫でまわすと満足したのかふうと溜息を吐き寝転がる。空全面に星が瞬いていた。
(今夜は特別な星の時間)
シリウスが産まれた日からプロキオンが産まれた日へ繋がる夜。特に何をするでもないが、いつもと変わらないやりとりと一緒に過ごす時間に愛おしさに涙が溢れ目を瞑った。
「そのまま寝ちゃダメだよ…」
静かなひと時を台無しにするかのようにシリウスはぱりぽり音を再開させる。シリウスにとってはあまり知ったこっちゃない、今が美味ければそれでいいのだろう。むすっとしたプロキオンの姿をみて機嫌を損ねたのは理解したらしい。
「骨、食べる?」
噛み砕かれ小さくなった骨をひとつごくりと飲み込んでから残りの骨を見つめそれからどうぞと視線をプロキオンに送った。残念ながら食べれないと断ってプロキオンは小さく小さく呟いた。
「シリウスの骨なら食べちゃいたいくらい愛おしいんだけど」
シリウスは何を言ったよく分からなかったのだが耳を傾け聴き直したところで分からないだろうと判断し骨を食べることを再開する。プロキオンが良いならそれで良い。
「さて、たまには城下に行きたいね…髪染直して」
プロキオンの地毛は橙色なのだが澄んだ泉の水で毛先の一部を青く染めお洒落をしている。だが占星をすると自らの魂も燃え上がるのか髪の色が橙色に戻ってしまうのだ。いつの占いを最後か少しぼさぼさになってしまった髪は橙色一色でそのままになってしまっている。久しぶりに城下に行くということは人に会うということだから身を整えておきたい。それにしても随分とこの泉に籠っていたと思う。最近は今ペンを握っている作品集への参加を申し出たくらいでこれと言って活動はしていない。城下で何をするかは何も考えて無いがのでそろそろなにかしたいのだ。
「さてもう寝るよ……」
黙々と食べ進めた骨も食べ終わりシリウスは舌舐めずりをする。ふわあ…と欠伸をしたところであとは寝るだけと丸くなる。プロキオンも傍で抱き合い一緒にうずくまる。
「おやすみ…」
明日のことは明日考えようと愛おしい温もりと共に眠りに就いた。