カウンセリングルーム

水曜日の昼休み。いつも食後のこの時間は読書しているのが常な僕が教室にいないなんて皆はおかしいと思うのだろうか。勝手な不安を抱えながら生徒の人通りのない一階の別棟に向かう。先日、遠めに見たあの部屋に入りたかったのだ。週に一度、学校外から話を聞いてくれるカウンセラーという人がくるらしい。あそこに行けば僕のこの胸の息苦しさをどうにかしてくれるのかもしれない。

『カウンセリングルーム』

不安の塊を抱えて誰にもすれ違わないことを願いながら部屋の前まで辿り着いた。きょろきょろして挙動不審なのは誰かに見られると僕が悩んでいることを気付かれると思ったからだ。とにかくこの苦しさを誰にも知られたくない。でもこの苦しさも部屋に入れば解決すると思ったのだ。今日の昼休みに確かに開いている旨の書かれた看板がぶら下がっており、間近でそれを確認していざ入ってみようと深呼吸すると小箱と共に注意書きが書いてあるのに気が付いた。

 

『要予約:学年クラス氏名を記入して箱に入れてください。後日担任を通して日程をお知らせします』

 

呼吸が止まる。誰にも知られず話を聞いてもらいたかった身としてはこれでは意味がない。開いているのかもしれないがなんとなく人の話し声がしたのでこのまま扉を開けるのを躊躇った。予約なんてできるわけない、担任に知られてしまう。無理だ、誰にもこの気持ちを知られたくないのだから。呆然と立ち尽くしていると廊下の角から人が歩いてくる気配を感じた。慌ててその場を離れそれからずるずるとそのまま教室へ引き返す。残りの時間どうしようか…トイレにでも行っていた風で戻って読書をするいつも通りの自分の姿しか想像ができない。どうにかなると思った重苦しい気持ちは抱えたままとなった。

 

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放課後、再びあの部屋の前まで来た。そっとドアノブに手を掛ける。鍵がかかっていた。当然、といえば当然だ。そして何故か扉が開かなかったことに安堵した。

冷静になって考えればどういう形にせよ少なくともカウンセラーという人には話を聞いてもらうことになるのだ。僕はこの心の不安を誰かに吐き出す勇気がなくて悩んでいるのにそれを吐き出してしまえばどうなる?

 

言えるわけがない言えないから苦しいのだから。

 

苦しいんだ、苦しいと言いたいんだ。

それを吐いてどうなるのだろう。

聞いてもらってその後どうしたいのだろう。

分からない。

なにが苦しいのか分からない。

どうしたら苦しくなくなるのか分からない。

やはり誰にも吐き出せないのだ。

だから苦しいのだ。

 

 

 僕はそのまま重い足取りで帰宅した。

 

 

 

 

 

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自意識過剰で相談できない僕の話。

上記のイラストは絵を描き始めた頃のものです。ファイルを見たら2012年11月になってました。

今後もこんな感じでなんとなく創作文でも書こうと思っています。

 

 

 

 今現在はこちら。改めて見返すと変わりましたね。

 

 

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