無題

平日の日中に両親に連れられて高校生の私はおばあちゃん宅にきていた。おばあちゃん宅といってもおばあちゃん自身はいない。入院しているのだ。今は意識が戻って安定しているが病状からして長くはないという話らしい。そう、私たちはおばあちゃんが倒れたと聞いて急遽県外のここまで車を飛ばしてきたのだった。


親戚の叔父さん叔母さんたちが次々にやってくる。うちは親戚が多くそれぞれ地方に住んでいる。集まるとなると一種の団体客のようになるのだ。そんなこんなであっと言う間に部屋が人でいっぱいになった。各々、煙草を吸う大人たち。煙草の煙が部屋に白く広がり臭い。見回すと長年染み込んだのか壁紙が黄ばんでいて空気清浄機が忙しく唸っていた。


「病院に行ってくる」


新たにきた叔父さんたちを連れて両親はおばあちゃんのところに向かった。私はさっき会ったのでここで留守番だ。


家にはここに住む叔母さんと私だけになった。


「ピヨ…ピヨピヨ…」


静かになった部屋に鳥の鳴き声がする。辺りを見回すと乱雑に物が置かれた棚の上に文鳥がいるのに気がついた。


おばあちゃんと一緒に住んでいる叔母さんがお茶を出してくれた。人がいなくなりいつの間にか空気清浄機は止まっていた。私はすることもなくボーっと流れているテレビを見ていた。


私は人と話すのが苦手なので何年も会ってない遠方の叔母さんに何を話していいのか分からない。叔母さんも上手く話せない人なのか話題を見つけるのに苦労しているみたいだった。


「この子ね、おばあちゃんが買ってくれたのよ」


ようやくそう言って叔母さんは文鳥の餌を取り替えながら話してくれた。


「へぇ、可愛いね…」


私はそれっきり黙ってしまう。上手く話せなくてまた文鳥を見つめた。


文鳥は時々ピヨピヨと鳴いては止まり木をチョンチョン移動する。


叔母さんは黙って煙草を吸い始めた。私の両親も煙草を吸うのだが煙草に良い印象は無い。なにより臭いが凄い。煙草の臭いが制服に付いて学校の先生に煙草を吸ってないか疑われたことがある。私は真面目な学生生活を送っているのにはた迷惑だ。喘息持ちの友達は煙の隣を歩いてたら咳き込んで止まらなくなってたから確かに有害なのだろう。


そんな煙草の煙が充満する部屋に小さな文鳥はいて、文鳥は苦しくないのだろうか。そう思ったら文鳥が可哀想に思えた。小さな身体であれだけの煙の中にいることを考えたら文鳥の寿命はそんなに長くはないのではないかと思った。


(おばあちゃんと文鳥どっちが長生きするのだろうか…)


なんてことを考えてしまった。