Dark-Release

「さて、どのくらい離れれば自らの素性を撒けるのだろうか」

深夜、城から飛び出た勢いのまま闇夜の山を下る。自分より幼い弟を連れてるから無理は出来ない。しかし出来るだけ離れたいのが心情だった。人気の無い山だが逆に賊がいる可能性もある。暗がりの中から一刻も早く抜け出たかった。

先刻、城から抜け出したこの二人はつまりは家出をしたのだった。もう二度戻らない……王族としての暮らしを捨て親からの干渉を逃れる為に二人で走り出したのだ。城の宝物庫から幾つかくすねてきた財宝で今後の資金はなんとかなるだろう。しかし敷地外の森を抜けその先の行く末を考えあぐねていた。

以前城下町に出掛けたときに仕入れた古めに外套を羽織っているのですぐにはバレないだろが街の人々の中には自分の顔を知る者もいる。早いうちに街自体から離れた方が良いとは思うが行く当てはないのだった。

ふぅ、とひとつため息を吐く。暗闇の中で灯り代わりに炎の石が嵌められた胸元のループタイが光る。宝物庫から持ち出した品のひとつだ。暗がりの中、歩くのにはこれで困らない。深夜の山の中に人気があるとは思えなかったが灯りの点った自分たちは目立つのだろうとぼんやり考える。無理矢理連れ出した弟のことを考えると早朝までには安全な場所で身を隠したいと思考を巡らせていた。